日々の喧騒に揉まれ、気づけば心も体も鉛のように重くなっていることはありませんか? パソコンの画面と睨めっこをし、絶え間ない通知音に追われる毎日。そんな日常から少しだけ距離を置き、自分自身をリセットするために、私はまた山へと向かいます。自然の中に身を置くことは、単なる「遊び」ではなく、現代人にとって必要不可欠な「メンテナンス」の時間だと思うのです。
今回(2025年12月22日)私が選んだのは、栃木県佐野市に位置する「三毳山(みかもやま)」。 冬の低山ハイクの醍醐味がすべて詰まったこの場所は、疲れた現代人にこそ訪れてほしい、最高のヒーリングスポットです。「山登り」と聞くとハードルが高く感じるかもしれませんが、ここは違います。もっと日常の延長線上にある、優しい場所。
特別な装備も、気負いもいりません。ただ、動きやすい服と少しの好奇心を持って、冬の澄んだ空気の中へ飛び込んでみてください。そこには、想像以上の「回復」が待っています。
12:10 始まりは、突き抜けるような青空から
車を停めたのは、みかも山公園東口駐車場です。
降り立った瞬間、まず迎えてくれたのはこの空でした。

雲ひとつない、スカッとした青空。 都会の空とは違う、濃くて深い「青」。これを見上げるだけで、すでに視覚から脳の緊張がほぐれていくのがわかります。 これから始まる短い旅への期待感が高まる瞬間です。「よし、登るぞ」という気合というよりは、「ああ、帰ってきたな」という安堵感に近い感覚。冬の冷たく乾いた空気を胸いっぱいに吸い込み、登山道へと足を踏み入れます。この瞬間の「スイッチが切り替わる感覚」が、私はたまらなく好きです。仕事モードの自分をここに置いて、素の自分に戻る時間の始まりです。あの、遠くに見える電波塔がゴールです。

12:20 枯葉のオーケストラを楽しむ
歩き始めてすぐに感じるのは、足裏から伝わる感触と、耳心地の良い音です。

カサッ、サクッ、サクサク。 冬の三毳山は、登山道が枯葉のじゅうたんで埋め尽くされています。一歩踏み出すたびに鳴るその乾いた音は、まるで自然が奏でるリズムのよう。普段、アスファルトの上では決して味わえないこの感触が、歩く楽しさを倍増させてくれます。
この「サクサク」という音には、不思議なASMRのような鎮静効果がある気がします。無心で音を楽しみながら歩いていると、頭の中を巡っていた「やらなきゃいけないことリスト」や「昨日の失敗」といった雑念が、いつの間にか消え去っているのです。ただ、足を前に出す。音を聞く。そのシンプルな繰り返しが、脳を瞑想状態へと導いてくれます。
12:30 足元の小さな発見

黙々と登るだけでなく、たまには足元に目を落としてみましょう。 枯葉の中に、鮮やかなオレンジ色を見つけました。誰かが落としたわけではない、自然に落ちた柿の実です。 茶色一色の地面に、ポツンと灯るような暖色。こういう小さな発見ができるのも、低山ハイクの魅力。急いでピークハント(頂上を目指すこと)をする必要なんてありません。のんびりと、自然のアートギャラリーを鑑賞するような気持ちで歩みを進めます。 「あ、こんなところに」と立ち止まる余裕が、心の余白を取り戻してくれます。
12:40 木漏れ日のシャワーを浴びて

冬の低山が素晴らしい理由の一つ、それは「光」です。 葉が落ちた広葉樹の森は、夏場のように鬱蒼としておらず、太陽の光が地面までたっぷりと降り注ぎます。 見てください、この眩しいほどの木漏れ日。 冷たい風が吹いても、陽だまりに入るとポカポカと暖かい。太陽のエネルギーをダイレクトに浴びることで、体内のビタミンDが生成され、同時に沈んでいた気分も上向きになっていくようです。まさに天然の「光のセラピー」。 木々の間から差し込む光を見上げていると、「明日もきっとなんとかなる」そんな前向きな気持ちが自然と湧いてきます。
12:50 青竜ヶ岳、登頂

スタートからゆっくり歩いても40~50分ほど。あっという間に山頂エリアに到着です。これくらいの手軽さが、リフレッシュにはちょうどいい。
「山頂(青竜ヶ岳) 229m」。 数字だけ見れば低い山ですが、ここからの景色と達成感は、標高だけで測れるものではありません。ちょっと息が上がるくらいの程よい有酸素運動の後に辿り着くこの場所は、私にとってのサンクチュアリ(聖域)です。
山頂には先ほどは豆粒でしたが、青空に突き刺さるような電波塔がそびえ立っています。

この無機質な構造物と、どこまでも広がる青空の対比もまた面白い。そして、視線を水平に移せば……

関東平野を一望する大パノラマ! 遠くの山々のシルエット、眼下に広がる街並み。自分が普段生活している場所をこうして高いところから俯瞰すると、「悩みなんてちっぽけなものだな」と、心に余裕が生まれてくるから不思議です。遮るもののない景色は、凝り固まった視神経を優しく解きほぐしてくれます。風が頬を撫でる感覚も、ここでは心地よい刺激になります。
13:31 最高のレストランへようこそ
さて、ここからはお楽しみのランチタイムです。 高級レストランのフルコースも良いですが、山頂で食べるご飯は、それらを凌駕する美味しさがあります。空腹と絶景、そして達成感が最高のスパイスになるからです。
今日のメニューは、コスパと手軽さを追求した「山メシ」スタイル。
まずは、「スープDELI 完熟トマトのスープパスタ」。

これ、ハイカーには本当におすすめなんです。サーモスの山専用の水筒にお湯を入れて持っていけば、注ぐだけで熱々のスープパスタが完成します。
そして何より素晴らしいのが、「片付けの楽さ」。 食べた後は容器をそのまま重ねてゴミ袋へ。帰宅後の面倒な洗い物が出ないのです。せっかくリフレッシュしたのに、帰ってから洗い物の山を見るのは避けたいですよね。この「後片付けのストレスフリー」さも、休日を楽しむための重要なハックです。 冷えた体に、濃厚なトマトスープが染み渡ります。ハフハフと言いながら食べる温かい食事の、なんと幸せなことか。
13:34 手作りおにぎりの贅沢
そして、主役は自分で握ってきたおにぎり。

塩昆布、チーズ、ネギ、ごまを混ぜてラップに包んだだけのおにぎりです。具はフレークサーモン。青空の下、絶景をおかずに頬張るこのおにぎりは、ミシュランの星付き料理にも負けないご馳走です。 塩加減もちょうどいい。お米の甘みと昆布の旨味が疲れた体に沁み渡ります。 「食べる」という行為が、単なる栄養補給ではなく、純粋な「喜び」に変わる瞬間です。コンビニのおにぎりも美味しいですが、自分で握った不恰好なおにぎりを山で食べるとなぜか愛おしく感じます。これもまた、登山の楽しみの一つ。
もうひとつの頂、中岳へ
青竜ヶ岳でのランチを終えた後は、もう一つのピーク「中岳」を目指します。 再び、木漏れ日が美しい快適な尾根道を歩いていきます。

お腹も満たされ、気分は最高。足取りも軽く、サクサクと枯葉を踏みしめて進みます。
ほどなくして、中岳の山頂に到着。ここには嬉しい設備があります。

そう、ベンチがあるんです! 青竜ヶ岳は少し岩場が多いので、ゆっくり座って休憩するならこちらの中岳がおすすめ。ベンチに腰を下ろし、食後のコーヒータイムといきましょう。リュックを下ろし、いよいよ「あいつ」を取り出す時間の始まりです。
お気に入りの相棒、スノーピークのチタンマグ✨
山でのコーヒータイムを至福の時間に変えてくれる、私の小さなお気に入りのギア。 スノーピークのチタンシングルマグです。

リュックから取り出すたびに、その軽さに驚かされます。 チタンという素材の最大の魅力は、なんといってもこの羽のような軽さ。 荷物を少しでも軽くしたい登山において、持っていることを忘れるほどの軽さは正義です。それでいて、タフで頑丈。ラフに扱ってもビクともしない頼もしさがあります。
指先に触れるチタン特有の、少しザラッとしたマットな質感。 取っ手を握ると、驚くほど手によく馴染みます。 ドリップパックをセットして、魔法瓶のお湯をゆっくりと注いでいく……。立ち昇る湯気と共に、コーヒーの香ばしい香りが冷たい空気に溶けていきます。
「ふぅ……」
一口飲むと、金属臭さが全くないクリアな味わい。 チタンは熱伝導率が低いため、熱いコーヒーを入れても飲み口が熱くなりすぎず、口当たりがとても優しいのです。 ただのコップではありません。このマグで飲むという「儀式」が、山での休憩時間を何倍にも豊かなものにしてくれるのです。
ベンチに座り、お気に入りのマグを両手で包み込むように持ちながら、ぼんやりと景色を眺める。 指先から伝わるじんわりとした温かさが、心まで溶かしてくれます。
ちょっと値は張りましたが、いい買い物をしたと思っています。
時計を見れば、入山してからまだ3時間ほど。 たったこれだけの時間で、身体中の空気が入れ替わったかのような爽快感。 お気に入りの道具と、美味しい空気、そして静かな時間。 これ以上のリフレッシュなんて、そうそうあるものじゃありません。
下山する頃には、「また明日から頑張ろう」という活力が、マグカップのコーヒーのように体の底から温かく湧いてきていました。
持参したドリップパックとサーモスの山専用の水筒のお湯で、淹れたてのコーヒーを楽しみます。 香り高いコーヒーを一口啜り、ふぅーっと息を吐き出す。目の前に広がる景色を眺めながら、ただぼんやりとする時間。スマホは見ません。流れる雲を目で追ったり、鳥のさえずりに耳を傾けたり。何もしない贅沢な時間を噛み締めます。職場では安いドリップコーヒーですが、こういうときぐらいは自分へのご褒美として若干高くても数十円ぐらいですから、美味しいコーヒーを飲むと心に充足感で満たされます。
時計を見ると、入山してからまだ3時間ほど。 たった3時間。映画一本分くらいの時間で、これほどまでに心身が軽くなるとは驚きです。ジムで汗を流すのも良いですが、不整地を歩き、太陽を浴び、土の匂いを嗅ぎ、風の音を聞く。五感をフルに使って自然と対話することは、人間が本来持っている「野生」を呼び覚まし、深い部分での疲れを癒やしてくれます。それはまるで、枯渇しかけていたバッテリーが急速充電されていくような感覚。
下山する頃には、来る時に背負っていた目に見えない重たい荷物(ストレスや不安)はどこかへ消え去り、代わりに心地よい筋肉痛と、「また明日から頑張ろう」という前向きな活力が体の内側から満ち溢れていました。
自然は、いつでも私たちを両手を広げて受け入れてくれる、懐の深いドクターであり、セラピストです。 もしあなたが今、少しでも「疲れたな」「リフレッシュしたいな」と感じているなら。 次の休みは、おにぎりを一つ握って、三毳山へ出かけてみませんか? そこには、きっとあなたが求めている最高の「癒やし」と「明日への活力」が待っています。

